米国のミレニアム世代(1980年代序盤~2000年頃生まれ)で流行していると言われている、FIREムーブメントをご存知でしょうか?
これはFinancial Independence, Retire Early の頭文字を取ってFIRE、日本語にすると「経済的独立・早期退職」といったところです。
要は「一生分をさっさと稼いで仕事辞めたい」ということを言っています。働きたくない気持ちは万国共通なんですね。
しかし果たしてFIREムーブメントの戦略は、日本に住む日本人の我々に適用できるのでしょうか?
もし適用できないならば、日本版FIREという基準は定められるのでしょうか?
FIREムーブメントの概要
下記が米国で提唱されているFIREムーブメントの早期リタイア戦略です。
- リタイア後の年間消費額を決める(ここでは240万円とします)
- その240万円を4%で割る (=6,000万円)
- その6000万円を貯める
- そして75%を株式に、残り25%を債券に投資する
- この場合、30年以内に資金が枯渇する確率は0~2%なのでOK (過去の市場統計でのシミュレーション)
とされています。
これらを検証していきたいと思います。
FIREムーブメントの根拠
FIREムーブメントの根拠はこの論文です。
(Sustainable Withdrawal Rates From Your Retirement Portfolio, Philip L. Cooley,1 Carl M. Hubbard2 and Daniel T. Walz3)
日本語にすると「退職後ポートフォリオからの持続的な引出率について」といった感じです。
平たく言うと、(早期)退職の時に投資を始めたとして、退職時資産の何%を何年引き出し続ければ、資金が枯渇する確率は何%になるのか?ということを検証しているものです。
これ自体は立派な論文なので、別に早期退職を煽ったり、逆に老後の不安を煽ったりするものではなく、著者は純粋に試算を行っておられます。
根拠データの一部がこの図となります。
(引用)
英語なので読みにくいですが、赤で囲った所がその根拠部分です。
引退時のポートフォリオを100%株式、または株式75%・債券25%として、ポートフォリオ引出率4%/年の時に、30年間資金が枯渇しない確率はそれぞれ98%と100%・・・と書いています。
余談ですが、この頃の米国は債券より株式の方が利回りが大きいにも関わらず、少し債券を混ぜたほうが分散効果で生存率が高くなるのが面白いですね。
なお、これはインフレ調整のシナリオです。他にも3つシナリオがあるのですが、該当部分は大差ないので今回はこの表を載せています。
FIREムーブメントによくある誤解
検証の前に一つ。
FIREムーブメントをまとめている日本語サイトは色々あるのですが、間違った話を書いているものが見受けれれます。
その240万円を4%で割る (=6,000万円) → その6000万円を貯める
ここについて、「資金を利回り4%で運用し続ければ元本を崩さずずっと生活できる」と説明しているブログが多いですが、これは違います。
この4%はあくまで資金引出率であり、期待運用利回りは別途定められているので注意してください。元本も必要に応じて崩しています。
上記の間違った解釈が示す「コンスタントに4%」という運用方針は危険が高いです。
利回り資産期間の問題点
FIREムーブメントにはいくつか問題点があります。
根拠のシミュレーションは1926年から1997年までにおけるS&P500の月次リターンで利回りを試算していますが、1997年ですら既に20年前のこと。これはさすがに古すぎます。
第2次世界大戦を経て、冷戦を経て、そして大躍進した利回りを今後30年間に期待するのは如何なものでしょうか・・・。さらに、古すぎてITバブルやリーマンショックの甚大な影響は含まれていません。
同じく国債利回りについても、5%や10%の期間が多いなど、今後30年では状況が違い過ぎます。
もちろんこれからの未来にAIとか量子コンピューターとか、とんでもない経済発展があるのかもしれません。歴史以上のパフォーマンスを出すかもしれません。
しかし、運用利回りとは早期退職後の人生を委ねるもの。もっと保守的に見積もるべきかと思います。
生存期間(=資金枯渇を検証する期間)の問題点
本論では最長の生存期間を30年としています。
定年退職者を想定した場合はこれで十分かもしれませんが、人生100年時代にアーリーリタイアを目指す者にとっては心もとないですよね。たとえ40代リタイアでも40-50年は確保したいところです。
FIREムーブメントはミレニアム世代がメイン層のはずなのに違和感がありますよね。
彼らは42歳の僕よりずっと若いですが、本当にこれでよいのでしょうか・・・
アメリカ人は楽観的ですね。
日本市場適用時の問題点
FIREムーブメントの根拠には、昔のS&P500月次リターンという素晴らしい右肩上がりの指数を用いています。
果たしてこの結果を失われた30年を経た日本に適用して生存可能なものなのでしょうか?
その点は独自に試算してみたのであとで読んでみてください。
心理的な問題点
いわんや全ての試算が正しかったとしても、リタイア後に全財産の75%を株式・25%を債券に投じ続ける度胸のある人がどれだけいるでしょうか?
僕は株式を含む投資を15年以上続けており、普通の人よりは若干リスク・リターンについての理解度が高いつもりです。長期的には日本市場でもそれなりのリターンは期待できるだろうし、少なくとも現金よりは有利に働くだろうことも頭ではよくわかっています。
しかしそんな僕でも、リタイア後に資産の75%を株式に投じることは抵抗があります。
市場が1%動くだけで50万円とか100万円とか動きますからね。
換言すると、これまでの人生そのものが短時間で1%動くようなもの。
いくら冷静を装ってもプラスになったら有頂天になるし、マイナスになったら心はどん底に。10%も下落しようものなら病気になりそうです。
これが死ぬまでずっと続くなんて僕には耐えられません・・・。
何のための早期リタイアなのか
そもそも僕たちがアーリーリタイアしたい理由は、会社や社会の煩わしさから逃げるため。安心してのんびり笑って暮らすためのはずです。
毎日チャートを見て一喜一憂する生活は、アーリーリタイアの目的を果たしていません。
気にせずにいようと思っても、相場の動きは絶対に気になります。慢性的な病気みたいなもので、一度踏み入れたが最後100%安心して暮らすことは不可能となります。
というわけで、FIREムーブメントが理論的・数学的に正しかったとしても人間の心理や幸福感は考慮されておらず、机上の空論になってしまっている部分があると思うのです。
続きです↓
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