検証「資産を100倍にした億トレーダー」は天才か?ウソつきか?それともただの偶然か?




世の中には「億トレーダー」という人たちが存在します。言葉の定義は文脈によって異なるようですが、1億円を運用しているトレーダーを指すことが多いようですね。また、億トレーダーの皆さんは「数十万円、数百万円といった比較的小さな元手からトレードで1億円まで増やした」と語る方が多いです。

しかしいきなり「天才が教える!〇〇トレード法で100万円から1億円!」といった話を聞いたら皆さんはどう感じますか?

筆者も含め、99%の人は「怪しい」「胡散臭い」と感じることでしょう。素直に「凄い!僕も学んでみたい!」と信じる人はごく少数だと思います。

彼らのトレードの真偽はわかりませんが、かといって証拠もなく頭ごなしに否定するのもよくありません。別に下記のいずれであっても矛盾はないのです。

  • 彼は本当に勝率の高いトレード手法を使っている
  • 彼は商材を売りたいから大袈裟なをついている
  • 彼は運が良かったから資産が100倍になった

1番目は本当なら文句なしに凄いことですし、2番目は話にならないという意味で問題になりません。本記事でまず検証したいのは3つ目ので成り上がったパターンです。この「運」というものは色々な解釈ができ、それ故に誤解や誤認も生じるんですね。そこで

  • 運だけで100万円を1億円に増やすことは可能なのか?
  • 増やせるとしたらどのような資産推移傾向があるのか?
  • その傾向と実際の億トレーダーの有り様は似通っているか?

のステップを経て検証します。

億トレーダーの平均像

まず必要になるのは典型的億トレーダーの平均像です。下記リンク先のFXプライム社がいい具合に10人ほどの成功トレーダーの事例や証言を紹介しているので参考にしました。

勝ち組FXトレーダー スペシャルインタビュー(FXプライム)

運用資産が1億円もなさそうな人もいますが、ここからは簡便のため「億トレーダー」と表現します。億トレーダーの自己申告をまとめると下記のようになります。もちろん個別には該当しない人もいますが、平均像だと考えてください。

億トレーダーの平均像
  • トレードに出会う前はろくな生活をしていなかった(パチンコやフリーター)
  • 初期資金は数十万円~数百万円程度
  • 最初は勝てない年が続いた
  • 手法Xを採用してから勝てるようになり、その結果資産を何十倍・何百倍に増やした
  • (だからその手法を解説している)

手法X

上に書いた「手法X」としては、

  • 「サポートライン」
  • 「エリオット波動」
  • 「ローソク足と移動平均で判断」
  • 「スキャルピングで低リスクトレード」

などのいわゆるテクニカル分析用語が挙げられています。手法Xの詳細がわかれば統計解析バックテストで真偽はわかるはずなのですが、その描写は明確ではなく根拠も判然としません。そのため絶対に意味のないものだとも、あるものだとも言い切れません。だから手法の有効性自体はグレーゾーンのまま置いておきます。

そこで今回はバックテストの代わりに、まずは

「仮にその手法がオカルト(無意味なもの)だと仮定しても、億トレーダーに達成できたのか?」

を検証していきます。

ランダム取引で検証

ここでは億トレさんの手法は完全に意味のないいわゆる「オカルト手法」であると仮定して話を進めます。

意味を持たないオカルト手法=ランダムな取引

と言えるので、全ての取引の勝敗の期待値は完全に1=プラマイゼロになります(手数料を除くゼロサムゲームの場合)。いうなれば胴元のいない丁半博打とかジャンケンみたいなものですね。

この場合、最も単純なケースだと100万円を1億円に増やすためには1/100のルーレットに全賭けして勝てばよいです。そうすると

  • 100人に1人は億り人
  • 99人はスッカラカン
  • 結論→億トレーダーは運で達成可能

しかしこれは現実的ではありません。実際の(オカルト)手法は多数の取引に「薄めて」1億円を目指す作業を繰り返しています。

億トレシミュレーター

そこで下記条件のプログラムを組んで試してみました。

億トレ シミュレーター
  • 初期資金100万円
  • 全張りの取引を繰り返す
  • 1回の取引結果は50%の確率で2%プラス50%の確率で2%マイナスとなる
  • 取引で変化した資産をまた全張り→5000回繰り返し
  • 上記で「一瞬でも1億円に到達するのか」を検証

2%の損益というのは、かなり価格変動の大きな投資商品にレバレッジを掛けて挑んでいるイメージです。取引回数5000回は、10年間毎日ザラ場で3回程度デイトレをするイメージで設定しました(*この2つの数値はどう設定しても結論の大筋に影響はありません)。あと実際にすべての取引に全張りする人はいないと思いますが、一部資産で取引しても単に薄めているだけのことなのでやはり結果は変わらない旨、先に書いておきます。

検証結果① 一般人のケース

というわけでまずは普通に10人分トライしました。10人の人が5000回取引をした資産推移結果は下のグラフの通りです。恣意的に選んだわけではないのでこの10回を一般人1~10と名付けます。縦軸が資産、横軸が取引回数(=時間)です。

大まかに結果をまとめます。

一般人の結果
  • ほとんどの一般人は、最終的には資産を大きく減らした
  • 前半で少し稼いでも後半で失速するパターンが多い
  • 一般人9」のような健闘事例も発生。しかし1億には程遠い
  • 取引によって多くの人が負け、一部の人に資金が集約する様子が見て取れる

ランダムに取引していくとほとんどの人はスッカラカンになってしまうんですね。

これは今回たまたま負けの人が多かったのではなくて、十分な取引回数があると数学的に負け組の割合が大きくなり、一部の勝ち組にどんどん資金が集約されます。一度資金が減ると増やすのが難しい(2%減ると元に戻すには2.04%必要)ためです。乱数って単純なようで奥が深いんですね。意外と知られていない事(?)なのでこの件は別の記事にまとめてみようと思います。

(後日まとめました↓↓)

【独自検証】格差は自動的に拡大し9割は投資で負けるという統計学的な話

次は運良く億り人になれた人のケースです。

検証結果② 億トレーダーに成り上がれたケース

当然ながらランダム取引で100万円が1億円に増えるのは非常に低確率。かなりの回数を試行しました…。先に全体的な結果です。

億トレーダーの発生
  • 約5000人に1人の確率で資産100倍増の人(億トレと呼ぶ)が発生する模様
  • (50%の設定勝率に対して)約52~53%の勝率をあげていた

発生した10人の億トレーダーの資産推移は下の10個のグラフになります。

単なるランダムでもこんなに増えるんですね!まあ1つのグラフを作る裏側には数千個~1万個以上の失敗作があるわけですが。

基本的にグラフはどれも似たような形で、ある時期を境に急激に資産を伸ばしたようにも見えます。伸びた時期に何が起こっているかデータを見てみると、7連勝とか8連勝みたいなのをぽこぽこと出しているのが一因でした。8連勝できる確率はたったの256分の1ですが、そういうクラスターがいい感じに固まってるんですね。

まとめると下記の通り。

ランダム億トレの特徴
  • ある時点を境に資産が伸びる時期があった(ように見える)
  • 連勝が高い頻度で現れて急激に資産を伸ばした
  • 勝率は52~53%だった(運がいい!)

以上で得られた結果を基に、実際の億トレーダーの証言と比較してみます。

「リアル億トレーダー」と「ランダム億トレーダー」の比較

まずおさらいをします。リアル億トレーダーの平均像は下記でしたね。

(再掲) リアル億トレーダーの平均像
  • トレードに出会う前はろくな生活をしていなかった(パチンコやフリーター)
  • 初期資金は数十万円~数百万円程度
  • 最初は勝てない年が続いた
  • とある手法を採用してから勝てるようになり、その結果巨額の資産を得た
  • (だからその手法を各々が解説している)

そして典型的ランダム億トレーダーの資産推移グラフはこう↓でした。

なんとなく似ているような…

はい。一応説明ができそうですね。

ランダムトレードによる結果にリアル億トレーダーの証言を混ぜ合わせると、下記イメージのような推測ができます。

解説です。

今回の試算の傾向として、①初期段階からいきなり立ち上がるケースはほぼ起こらないのですね。手数料負けを考慮したら立ち上がりはもっと遅くなるはずです。この間、リアルのトレーダーは②勝ちたい一心で色々な手法を試すでしょう。そして運よく③資産急増の時期を迎えます。そして結果的には、④その直前にたまたま採用したトレード手法に変えてからいきなり立ち上がったように見えると言えなくはありません。

上のグラフで言うと手法Eにあたるものです。Dかもしれませんが。Eは「エリオット波動説」のEかもしれないし、「サポートラインの説」かもしれないし、「ローソク足と移動平均」かもしれないし、「スキャルピングの独自ルール」かもしれません。どれでもいいのです。そして左記手法の全てがオカルトだったとしても、「運よく最後の1つだけはオカルトではないように振舞ってしまった」というわけです。

となれば、この計算が証拠だ!やっぱり億トレーダーは偶然の産物だ!と言い切りたくなります。しかしそれも少し飛躍し過ぎでありましょう。

リアル億トレーダーはランダムウォーカーだったのか?

今回の検証では

ランダム取引でもリアル億トレーダーの証言を十分説明できる

ということが分かりました。しかし逆は説明できません。つまり実際に存在する億トレーダーが

  • ただの運が良い人だったのか?
  • それとも合理的に本当に52-53%以上の勝率をあげられる天才だったのか?

どちらなのかは確定できません。今回の検証は後者の可能性を否定するものではないからです。

しかし仮に後者、天才だったとすればどうなってしまうのか?

丁半博打に対して平均勝率52-53%と言うと簡単そうに見えますが、超高速・超高度に合理化された現代の市場では極めて優れた投資手法だと言えます。これはもはやパンドラの箱。だって年500回の取引を行えば「10年間の運用期間で100倍になる = 年利平均58%の手法」なんです。このパンドラの箱を開けてしまったが最後、取引を5万回繰り返すと資金は1京倍に増えます。

そしてさらに続けること15万3993回目。ついに1万円札の札束の質量は太陽と同じ重さになり…地球は圧壊*100万円=100g

という冗談はさておき、この手法のヤバさが伝わりましたでしょうか?ちなみに最初に紹介したスペシャルインタビュー記事には勝率6-7割、さらには8割と豪語する方もおられます。1回あたりの利幅はわかりませんが恐ろしいですね。

とにかくこのパンドラ投資法の利益を総取りするためには手法の「し」の字も口外してはなりません。元々不安定そうなテクニカル手法ですし、情報が拡散したらあっという間に裁定機会は消滅します。

絶対完全秘匿すべきでしょう。少なくともFX会社の宣伝インタビュー記事で話す内容ではなさそうです。

リアル億トレーダーの心理状態の推定

話は変わり、もしあなたが運よくランダム億トレーダーになってしまったら、どういう心理状態になるでしょう?先ほど書いたランダム億トレーダー1の推移。

④「僕は(オカルト)手法Eで億トレーダーになりました」こう思い込んでしまうのも無理はありませんよね。私でも絶対そうなります。

きっと億トレさんたちだって最初は

  • 「本当なのかなあ…」
  • エリオットってなんだよ…」
  • 「フィナボッチってなんだよ…」
  • 「『まれにダマシシグナルがある』と言うなら全体的には意味ないんじゃ…」

などと半信半疑で採用したのでしょう。でもやってみたら(偶然だったにせよ)びっくりするくらい効果的に資産が増えてしまった。こうなったら他人の指摘など耳に入りません。

もともとフワフワとした手法だから、自分でもロジックをうまく説明することはできません。だけど!非常に強固で確度100%の数値的エビデンス、すなわち自らの取引履歴は持っているのです。そうなれば結果の方に合わせて過程や根拠を作っていく心理状態(認知的不協和?)に陥ってもおかしくありません。

億トレの心理状態
  • フワフワした手法Xを半信半疑で採用した
  • でも「結果としてのデータ」や体験は強力に有効な手法だった(自分にとっては)
  • 誰かに手法Xが有効であるのか根拠を問われる
  • 後付けで理由を探す
    →「毎日16時間くらいチャートを見てたらクセが分かった」「今はチャートで市場心理を読み解いて取引している」「例外的にダマシがあるから注意!」など
  • 何度も説明しているうちに自分も信じ込んでしまう

もとがフワフワしていると後付けの理由も探しやすいかもしれませんね。このあたりもリアル億トレーダーさんたちの証言とうまく一致しているように思えます。きっとわざとウソをついているわけではないのです

信じるか信じないかはあなた次第

検証は以上です。

これまでの話を踏まえるとどちらが合理的な解釈でしょうか。

  • 偶然説。5000人に1人が億トレーダーになっただけ
  • 必然説。天才億トレーダーは年利58%の投資手法を開発した

信じるか信じるかはあなた次第。

一応本ブログは、我々一般人は真面目に給料を貯め、無駄遣いをせず、薄利でも手堅い投資を行い、資金を地道に増やすべきだと推奨しています。

である!

以上、久々の検証記事でしたがお読みいただけありがとうございました。

6 件のコメント

  • +2%、-2%に単純化せずに何かそれっぽい分布にした場合の結果も見てみたいです。
    試行が多いのであまり変わらないかな。

    • >tthさん
      毎度のコメントありがとうございます!
      はい、この試算は±1%にしても±3%にしても取引の期待値が同じなら、収束までの速さは違えども結局同じところに行きつくんですね。
      だから利食い損切りの幅をランダムとか正規分布っぽいのにしても、多分同じになると思います。
      またよろしくお願いします!

  • 面白い記事ですね。
    株の場合は様々な会社が営利活動を行ない、それが業績に現れるので企業分析の力量差によって投資成績に差が出るのではないかなと感じてます。もちろん運の要素もありますが、記事で検証されたランダム性に寄るものだけではミスリーディンの可能性もあるのかと思います。

    • >兼業投資家億り人さん
      コメントをありがとうございます!
      今回記事ではランダム性を押し出すためにあえてFXにおけるテクニカル分析について書いておりました。
      株は経済成長によるプラスサムの側面があるし、おっしゃる通りファンダメンタル分析の巧拙も確実にあるでしょうね。
      わたしはかなり効率的市場仮説寄りの考えを持っていますが、ウィーク型の効率的市場仮説をさらに少し弱めたくらいが実態じゃないかと思っています。
      特に特定の業界に詳しい人などは価格織り込みの前に発見できる可能性もいくらかあると思います。
      また本ブログをよろしくお願いします!

  • 2%プラスと2%マイナスを繰り返したら損していくのは当然な気が・・・
    例えば100%から10%の損失を出して10%利益を出ししたら99%になりますよね(逆でも同じ)

    • >774さん
      コメントありがとうございます!
      ご明察の通りです。この事は次回の記事にしようと思って「検証結果① 一般人のケース」の最後の方に書いていたのですが、
      ほとんどのケースは当然の如く損をしますね。。
      それは774さんのいう理屈のように、かなり資金が減ってくると再起不能になるからです。
      しかしお金が消滅するはずもなく全サンプルの分布で期待値を取ると当たり前ですが1になります。
      本記事と同じ条件で10000取引を行うと、最終的には概ね15%程度がプラス、85%の人がマイナスになります。
      ごく少数のサンプルだけとんでもない額を稼ぎ、100倍以上に増やす者が0.04%程度、10倍以上に増やす者が0.17%程度発生し、
      この少数の人が全体の資金の45%を占めるという超格差社会となります。
      また次回記事で書きますが誤解の出ないように本記事にもひっそりと何か追記しておきます。

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