ブラック企業列伝:異動した部署はスーパー残業ブラックだった その3 -北田君の反逆―




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これまでのお話↓↓

北田君

前回記事で紹介した北田君(当時多分26歳)。

彼は僕より1つ年下で、入社時期もほぼ同じ。お互いにため口をきく同期みたいな間柄でした(厳密には同期入社ではない)。

北田君はかなり明るい「陽キャ」だったんですが、気性も激しいタイプでした。でも本当は純粋ないい人だったので僕は嫌いじゃありませんでした。なんというか熱血サラリーマンみたいなイメージです。

北田君と僕は休日に飲みに行くこともあり、秘密をちゃんと守る男なので僕のFIRE計画を密かに話したこともありました。彼は「そんな夢みたいなことを言って…」みたいな反応でしたが、僕は会社を辞めれたらあれをしたい、これをしたい、と話したような記憶もあります。

北田君の涙

さて、僕と北田君が異動してきてから数か月。滅茶苦茶な残業と睡眠不足などで二人とも弱っていました。

そしてある日。北田君はとうとう限界が来たのか19時に強引に退社しようとしたことがありました(※標準退社時刻は0時)。そのことで上司にボロカスに怒られ、北田君は部屋を飛び出し喫煙所に引きこもってしまいました。すごく心配になったので喫煙所に行ってみたら・・・北田君は泣いていました

僕は「とにかく明日からも頑張ろう。明日からちゃんと残業すればきっと許してもらえる。僕もつらいけどとにかく一緒に週末まで頑張ろう。」みたいなことを言って慰めた気がします。

北田君の精神が崩壊し始めた

その頃から北田君はどんどんおかしくなっていきました。もともとはハキハキしゃべる明るい奴だったんですけど、なんかしゃべり方がどもったりつまったりするようになり、表情も声のトーンも暗かったです。挙句の果てには誰にでもわかるウソをついて有給を取ろうとしてバレたり、つじつまの合わない言動や行動も目立つようになりました。そうです。鬱病(?)の始まりです。

社内いじめ

上司たちは北田君を煙たがるようになり、とうとう「北田いじめ」が始まりました。ほとんどの社員が北田君に常に厳しい態度で接するようになり、北田君の話し相手は僕だけになってしまいました。僕も一緒にいじめられるんじゃないかと怖かったんですけど、北田君が完全孤独になってはいけないので隠れ喫煙所や外で雑談し、ガス抜きの相手をしていました。いつも「いじめられて辛い。俺は職場が正常になってほしい」「辞めて逃げても他に就職できるところもない」「残業もつらい」と半泣きで訴えてきました。本当にその通りなので僕は気の利いたアドバイスができず困ってしまって、結局うなずくことしかできませんでした。

北田君の反逆

そしてある日のいつもの残業中。

21時ごろに北田君が突然課長の席に行き・・・ブチきれました。

「意味もなく毎日1時まで無給残業を強要するのはおかしい!!」

「飲み会の後の残業には何の意味もない!!」

「全員が普通の思考に戻れば全員が20時くらいには帰れるはず!!損をする人などいない!!」

「社内いじめはやめてほしい!!」

「この状況がずっと続いているのは課長のせい!!!」

「著しく合理性に欠ける!!!」

「合理的に仕事を管理する責任はアンタと所長!!!」

「俺は他に行くところがない。この職場がまともになってほしい!!!」

「みんなもこんなことはもうやめよう!!」

みたいなことを怒涛のように課長に大声で叫んでいました。部屋中に響いてわざと職場全員に聞こえるように、、、というかみんなに話しかけている感じでした。少なくとも僕には北田君が言っていることは完全に正論に聞こえたし、心の中で拍手です。よく言ってくれたぞ!

この時の北田君は何かが吹っ切れていたのか?突然どもりが治って昔の元気だったころの北田君に戻っており、気迫でも完全に課長を押していました。

職場全体が沈黙していました。ニヤニヤして北田君を見ている人もいれば、無表情で何事もなかったかのように仕事を続けている人もいました。

そして長い沈黙に耐えられなくなった北田君。

「〇〇さん、××さん、どう思いますか!? …仕事辞めるマンくん(←僕)は!!??」

と名指しで意見を求め始めました。

でも僕には勇気がなく、その空気では無言を貫くことしかできませんでした・・・。〇〇さんと××さんも同じで何も言えませんでした。ずっと沈黙が続きます。

課長の反応

ついに課長が席から立って口を開きました。

「北田のいうことにも一理ある。みんな不要不急の残業はしないように。今日はもう早めに帰りましょう。」

俺は北田君、よくやった!!!課長がわかってくれた!!)と心の中で拍手をし、安堵感を覚えました。

課長「はいみなさん、そういうわけで。帰るぞ~ ホラホラ 早く早く~」

そしてそう言った後・・・

課長「おっと、これがあった。」

なんと課長は再び椅子に座り、何事もなかったかのように仕事を再開しました。皆も課長に同調し仕事に戻っていきました。

北田君は職場を飛び出しその日は帰ってきませんでした。

そして翌日からも会社は何一つ変わることはなく・・北田君の捨て身の反乱は失敗に終わりました。

北田君の最後

その後も北田君は会社には来ていましたが完全に心を閉ざしてしまい、誰とも話さなくなりました。僕とも。

職場ではこれまでの北田君に対する罵詈雑言はなくなったものの、その代わり全ての仕事から降ろされ、完全にいない者として扱われるようになりました。

北田君は1か月ほどはひたすら毎日16時間、無表情に机に座って過ごし・・・会社を辞めました。送別会はありませんでした。

これはその5年くらい後に聞いた話なのですが、北田君にはその時は既に両親がおらず実家もなく、退社後はしばらく遠くのお姉さんの家に引きこもりながら病院に通っていたそうです。会社を辞めても明るかった北田君は戻ってこなかったのです。

ただ会社相手にまともなことを言っただけなのに、彼の人生はめちゃくちゃになりました。

謝りたい

僕は後悔しています。北田君が勇気を出して課長に反逆したあの時「僕もそう思います」と同調すればよかった。そうやって空気を変えれば北田君は少なくとも救われたし、もしかしたら他の人も同調して職場のブラックっぷりも改善されたかもしれません。でも勇気がありませんでした。心の中では完全に同調していたにも関わらず、みんなの前で北田君の味方をするのが怖かった。

うちの場合は上下関係が極めて厳しく、一度でもこういうことをすると上記のような悲惨なことになってしまいます。そんな一番難しいことをやってのけた北田君。

北田君が開いた道にあとから続くことは、彼の偉業より遥かに簡単なことなのに、僕は怖くて傍観者になってしまいました。多分北田君は自分に同調してくれそうな人を選んで、すがるような思いであの時僕に意見を求めたんだと思います。

すごく酷いことをしてしまったと思っています。

以上もう15年くらい前の話ですが、今でも北田君のことが頭から離れません。

ブラック企業はいとも簡単に社員の人生を壊してしまいます。

そしてその体制や雰囲気を正常に変えることは極めて難しいです。

だから世の中のブラック企業はすべて会社を畳んで消滅すべきです。

僕は消極的手段であったにせよ、北田君の人生を崩壊させることに加担してしまいました。そんな僕が言えた義理ではないですが、今40歳になった北田君がどこかのまともな会社で幸せに暮らしていることを願っています。

あの時は本当にすみませんでした。

以上、2つ目のブラック事務所のお話でした。

5 件のコメント

  • 長文の以下コメント失礼します。

    いつもブログを楽しく、また興味深い考察をホホゥと思わさせながらいつも拝読させていただいております。下手な本より大変面白いです。
    過去データが飛んでしまった前から随分とブログを拝見させて頂きましたが、一つだけ全く腑に落ちない疑問があり、ご質問したく初めてどなたかのブログなるものにコメントさせて頂きました。

    さてその質問とは、ブログ主さんは何故、新卒入社のその会社からの転職をされなかったのでしょうか?ブログからのみの推測となりますが、貴兄のそのテーマの切り口、論理展開力、文章構成力、そしてユーモア、また英語力も相当と拝察します。それらを考えると確かに氷河期という時代背景でそのスペックに見合わないこととなったかもしれませんが、失礼ながら現お勤め先以上の条件の会社への転職は容易いものとお見受けします。
    たとえアーリーリタイアを行うのが大前提としても入金力やストレスとのコストベネフィットを考えたら無理して現状に留まっている合理的理由が、貴兄の頭の良さからどうしても理解できません。
    上記のように感じてらっしゃる読者は私だけでないと思います。そのあたりの思考も深くお聞かせいただきたいので、もしよろしければこちらのコメントへの返信などでなく本記事のテーマとして取り扱って語って頂けると幸甚です。
    (最近お忙しいのか更新頻度が減少し残念に思っております笑)

  • 長文の以外コメント失礼します。
    いつもブログを楽しく、また興味深い考察をホホゥと思わさせながらいつも拝読させていただいております。下手な本より大変面白いです。
    過去データが飛んでしまった前から随分とブログを拝見させて頂きましたが、一つだけ全く腑に落ちない疑問があり、ご質問したく初めてどなたかのブログなるものにコメントさせて頂きました。

    さてその質問とは、ブログ主さんは何故、新卒入社のその会社からの転職をされなかったのでしょうか?ブログからのみの推測となりますが、貴兄のそのテーマの切り口、論理展開力、文章構成力、そしてユーモア、また英語力も相当と拝察します。それらを考えると確かに氷河期という時代背景でそのスペックに見合わないこととなったかもしれませんが、失礼ながら現お勤め先以上の条件の会社への転職は容易いものとお見受けします。
    たとえアーリーリタイアを行うのが大前提としても入金力やストレスとのコストベネフィットを考えたら無理して現状に留まっている合理的理由が、貴兄の頭の良さからどうしても理解できません。
    上記のように感じてらっしゃる読者は私だけでないと思います。そのあたりの思考も深くお聞かせいただきたいので、もしよろしければこちらのコメントへの返信などでなく本記事のテーマとして取り扱って語って頂けると幸甚です。
    (最近お忙しいのか更新頻度が減少し残念に思っております笑)

    • >いつも楽しく拝見しております!さん
      返信(&コメント承認ボタン)が大変遅れすみません;;
      コメントをありがとうございます!
      まあ私はそんなに高い能力はありませんから…もったいないお言葉です。
      氷河期世代は転職も難しかったですね>< 転職にいい年齢でリーマンショックが訪れ・・・
      ブラック過ぎて洗脳されていたところもあったかもしれません。。。
      もうここまで来たら完全リタイアを目指します!
      折を見て更新を頑張って行こうと思うので、またよろしくお願いします!

  • 私の今の会社も、完全にブラック企業でした。
    残業時間はさすがに日付が変わるまでではありませんでしたが、サービス残業、サービス出勤、パワハラなど、ブラックの基本はしっかり押さえたナイスな会社だったと思います。「グレーかブラックか?」と聞かれたら「ブラック」と答えられるくらいには。

    しかし時代は変わって、「グレー」になってきました。
    来年、課長に昇進します。
    理不尽にキレていた私の上司が、ついに私の部下になります。
    仕返しをして気持ちが晴れる性格ではないので、するつもりはありません。
    ちなみにうちの社長は「これからの時代、70まで働くのが普通」などとぬかす、馬と鹿がフュージョンした完全体です。
    まだ38ですが、あと7年で退職するつもりなことは、会社には伝えていません。
    ささやかな仕返しを目論む、腹黒い私です。

    北田さんもきっと、今は普通に暮らせていると思いますよ。大変失礼かもしれませんが、、、
    《そこより黒い会社、そうそうないですから!》

    長文、失礼しました。

    • >たけっちさん
      コメントをいただきありがとうございます!
      ブラックの方ですか… 本当に最悪ですよね!!!
      課長に昇進されるとのこと、徐々に会社がホワイト寄りのグレーになればよいですね。
      うちはもう絶対ダメなので逃げ出す準備を着々と進めています…
      北田君はそれ以降全く音信がありませんが、多分元気にしているのか…
      45歳引退を考えているということで私と同じです、アーリーリタイア目指して頑張りましょう!
      またよろしくお願いします!

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